「世の中に対して『重度訪問介護ってこういうものだよ』と伝えていくことが今の僕の役割」介護福祉士・YouTuber つよさんぽさん

訪問介護・看護サービスを提供する事業所「アワーケア」を経営するかたわら、YouTuberとしても活躍する大野剛(つよさんぽ)さん。重度訪問介護の現場を動画にして発信することで、多くの人が訪問介護・看護の世界に触れるきっかけを生み出しています。「大学を中退して、しばらく職を転々としていました」と語る彼がこの業界に足を踏み入れたきっかけ、そして仕事を続ける理由を聞きました。

【つよさんぽさん プロフィール】
OUR合同会社代表/介護福祉士/YouTuber。居宅介護、重度訪問介護、訪問介護、訪問看護サービスを提供する事業所「アワーケア」「アワー訪問看護ステーション」を運営。2020年春に公開した動画「重度訪問介護ヘルパーの1日ルーティン」が200万以上のアクセスを集め話題となる。

「重度訪問介護」という仕事

「重度訪問介護」という言葉。なんとなく聞いたことがあっても、その全貌をご存じの方は少ないのではないでしょうか。
重度訪問介護とは、
・重度の肢体(手足)不自由
・重度の知的障害もしくは精神障害
といった常に介護を必要とする事情のある方に対し、ホームヘルパーが自宅を訪問し、生活のサポートを行うことを指します。

ヘルパーは入浴、排せつ、食事の援助をはじめ、調理、洗濯、掃除などの家事、生活についての相談や助言、外出のサポートなど、利用者の生活全般に関するケアを行います。介護事業者は手厚いサービスを提供することで、常に介護が必要な方でも在宅での生活を続けられるように支援しています。

仕事のルーティンを紹介した動画に200万以上のアクセス

つよさんぽさんが介護士として注目を集めるきっかけとなったのは、2020年春にYouTube上で公開した一本の動画でした。「重度訪問介護ヘルパーの1日ルーティン」と題し、重度の障害をもつ小松日吉さん宅でのケアの様子を紹介。動画の再生回数は200万回(2021年5月時点)を超え、「こんな素敵な方に介護されたい」「見ていて胸が熱くなった」など応援のコメントが殺到しました。

(「重度訪問介護ヘルパーの1日ルーティン」よりキャプチャ)

そんなつよさんぽさんが訪問介護の業界に足を踏み入れたのは、24歳の頃。それまでは地元の徳島や大阪でさまざまな仕事を転々としてきました。

「子どもの頃から集団生活が苦手で、大学に入ったもののなじめず中退してしまいました。それから数年間、いろんな仕事を転々としました。バーテンダー、居酒屋のバイト、キャバクラのボーイ、引っ越し屋……本当にいろいろやりましたよ。でも、どれも続かなかった。それで24歳になる頃、5万円くらいのわずかなお金を握りしめて東京に出てきたんです」

上京した頃に志していたのは、ファッション関係の仕事。スタイリストの師匠のもとで学びましたが、経験を積むうちに「向いてないな」と感じるようになったと言います。ファッションの仕事を離れ、その後の進路を真剣に考え始めたとき、初めて「介護の仕事に就く」という選択肢が生まれました。

「好きなことを手当たり次第にやっていたらお金がなくなってきて、それに比例して心も貧しくなった気がしたんですよね。そのとき本気で『稼ぎたい、稼がなきゃ』と思ったんです。このままふらふらしててもダメだなと思い、ちゃんと手に職をつけて働く決意をしました。そこで思いついたのは、不動産の営業か介護のふたつ」

介護業界を選んだのは、「将来仕事に困ることがなさそう」という理由からでした。

「これから日本は高齢者が増えて介護の市場は大きくなっていくだろうから、介護の仕事につけば職を失うことはないだろうと思いました。おじいちゃん、おばあちゃんと話すのも元々好きでしたし」

「手に職をつけたい」という思いから介護の仕事に就くことを決めたつよさんぽさんは、さっそく大手介護事業を手がける会社の勉強会に参加。研修の休憩時間、その会社で働いているという人に声をかけられます。

「『うちの会社にこないか』と声をかけられて、流れで面接を受けることになりました。面接官の方から重度訪問介護の話を聞いて、『やってみようかな』と思ったんですよね」

続けられたのは、1対1で向き合う仕事だから

面接で話を聞いて興味を持ち、その会社に就職を決めました。24歳で足を踏み入れた重度訪問介護の世界。介護業界に対して当初抱いていた印象は決して良いものではありませんでした。

「重度訪問介護について詳しいことはあまり知らずに入社しましたが、『介護職はきつい上に給料は安い』みたいな話はよく聞きますし、そういう印象はありましたね」

それでも、利用者の自宅に行って1対1でケアをするという訪問介護の仕事に、つよさんぽさんは少しずつ自身の適性を見出していきます。

(「訪問看護の開業方法&開業資金を圧倒的に解説!!!」よりキャプチャ)

「最初に話した通り、集団生活が圧倒的に苦手だったんです。その自覚があったので、組織で働くのも向いていないだろうと思っていました。だからこそ訪問介護がフィットしたんだと思います。利用者さんの自宅で、1対1で向き合う仕事なので。同じ介護業界でも、高齢者施設の仕事だったらできなかったかもしれません」

さらに、元々備わっていた好奇心も介護の仕事に活かされました。

「人によって症状だけではなく、性格も違います。家の様子や言動から『どんな性格をしているのか』『どんなこだわりを持っているのか』などを想像して、『じゃあどんなふうに接したらいいだろう』と考えながら仕事をしていました」

就職した会社では、訪問介護の現場はもちろん、シフト管理などのマネジメント業務や新規事業所の立ち上げなど幅広い仕事を経験。それまでの仕事はすぐに飽きてしまったり「辞めようかな」と思ったりすることが多かったそうですが、介護の仕事だけは違いました。

「単純に、介護が好きだから続いているんだと思います。この仕事を始めてから家族や友達によく褒められるようになったので、向いているということなのかなって。向いていそうだからこの仕事についたのではなく、『やってみたらできた』という感覚ですね」

2年間の会社員生活を経て介護事業所の全体像をつかんだつよさんぽさん。「自分でもできるかもしれない」という気持ちから、2019年、独立することを決意します。

「重度訪問介護ってこういうもの」と伝えていくのが、今の僕の役割

会社を退職し、つよさんぽさんはOUR合同会社を立ち上げました。訪問介護の事業所「アワーケア」を設立し、YouTubeでの発信にも力を入れ始めます。とはいえ、最初は介護とは関係ない動画をアップしていたそう。

(YouTubeチャンネル「つよさんぽ。」よりキャプチャ)

「訪問介護でいろんな街に行くので、散歩風景をアップしてみようかなという思いつきでYouTubeを始めました。なので最初は散歩の動画をアップしています。結局散歩の動画はアクセスが伸びなかったので、それからいろいろ試行錯誤して今に至ります」

試行錯誤を経て、利用者さんの自宅での仕事風景を公開することに。先述の通り、それが「バズった」ことでYoutuberとしての注目度が高まることになりました。訪問介護の動画にアクセスが集まったことについて、つよさんぽさんはこう分析します。

「重度訪問介護の現場って、世間一般にはあまり知られてないですよね。『介護』というと、基本は高齢者施設で働く人をイメージする方が多いと思います。だから、利用者さんの自宅で介護する映像は新鮮に映ったんじゃないでしょうか。食事、歯磨き、トイレとか細かい映像も公開したので、具体的なイメージが伝わったんだと思います。アクセスが伸び始めるとYouTubeが注目の動画としてピックアップしてくれて、それをきっかけに介護に関心のない人にも見ていただくことができました」

Youtubeの動画では、つよさんぽさんが相手ときちんとコミュニケーションをとりながら、楽しそうに仕事に取り組む姿が印象的です。理想的な介護士の姿にも映りますが、「いい介護士」とは何なのか、つよさんぽさん自身もはっきりした答えは持ち合わせていません。

「『いい介護士』が何なのかは、僕にもわかりません。介助が好き、空気が読める、『郷に入りては郷に従う』ができる、ポジティブとか……そのあたりの特性を持ち合わせている人かな? という仮説はありますが……。

僕自身は、相手を尊重して相手の気持ちを考えることを心がけています。どうして一人暮らしがしたいのか。どうして施設ではなく在宅がいいのか。それぞれの思いがあるはずです。その考えをきちんと理解して、尊重したいんです」

目の前の相手をよく見て、相手が何を考えているのかを理解し、その考えを尊重する。介護士として4年間働く中で、そういった姿勢を大切にしてきたとつよさんぽさんは語ります。

「もちろん最初からそう思っていたわけではなく、利用者さんと向き合う中で勉強させてもらいながら、徐々に『ヘルパー』になっていきました。お叱りをいただいたこともたくさんありますよ」

会社を立ち上げて、もうすぐ2年。2020年からは看護師の事業パートナーを迎えて訪問看護事業にも乗り出し、サポートの領域を広げています。最近は自分から営業活動をすることはほとんどなく、YouTube経由での問い合わせも増えてきたそう。会社設立時の目標としていた「年商1億円」も達成し、ますます訪問介護・看護業界内での存在感は高まっています。これからのビジョンについて聞いてみるとーー。

「『社会の役に立ちたい』というほどではないんですけど……少しでも高齢化社会に貢献したいとは思っています。それから、せっかくこの業界にいるので、いろんな人に介護現場のことを知ってもらえたらいいなと思います。介護のイメージがポジティブなものに変わってくれたらいいですね。世の中に対して『重度訪問介護ってこういうものだよ』と伝えていくのが、今の僕の役割かなと思ってるので」

とはいえ、事業をもっと大きくしようと肩肘張るのではなく、あくまでも自分の好奇心に従って楽しむのがつよさんぽさん流。会社経営もYouTubeも「仕事というよりは趣味に近い存在」だと言います。

ネガティブなイメージが強かった介護の領域に、新しい風を吹き込んでいるつよさんぽさん。彼のYoutubeをきっかけに介護や看護の道を志す人も、これから増えていくのかもしれません。

 

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