「“できない理由”を考えるより“できる方法”を考えていきたい」ぐるんとびーが考える専門性の価値

医療ケアなどサポートが必要になっても、住み慣れた自宅での生活を続けたい。そんな願いを叶えるためのサービスが、小規模多機能型居宅介護。通いを中心に、訪問介護、泊まりなどを組み合わせ、自宅で生活することをサポートしながら機能訓練を行うサービスです。

「ぐるんとびー」は、神奈川県藤沢市で同サービスをはじめとした看護・介護事業を営む法人です。「人生の最期まで、人として当たり前にある願いを実現したい」という思いのもと、地域の人々も巻き込みながら、個々人の意思を尊重したケアを行っています。

高齢者の場合、「〜〜を食べたい」「〜〜へ行きたい」を実現するにはリスクがつきものであることも事実。安全面でのリスクと本人の希望の双方を考慮しながら、最期の瞬間までその人らしく生きる手助けをするために、現場の看護師は日々どのような思いで利用者に向き合っているのでしょうか。

2021年春からぐるんとびーで看護師として働いている志藤ももこさん、そして看護師統括を担当している石川和子さんにお話を聞きました。

石川和子
ケアマネジャー/看護師。ぐるんとびー 小規模多機能型居宅介護 所属。二児の子育てをしながら、日々利用者のケアやスタッフの指導、マネージメントを行う。
志藤ももこ
准看護師。ぐるんとびー 看護小規模多機能型居宅介護 所属。北海道で生まれ育ち、札幌の病院で看護師として働いたのち、2021年春からぐるんとびーのスタッフに。

作業に忙殺される毎日に疑問を感じ、ぐるんとびーへ

志藤ももこさんは、2021年春からぐるんとびーで働き始め約半年の看護師です。訪問看護を中心に、ごはん作りや入浴介助など、利用者の状態や希望に合わせたケアを日々行っています。

「訪問看護のスケジュールは基本的に決まっていますが、利用者さんの希望に合わせて柔軟に対応しています。今日は通所の利用者さんから、ここ(看護小規模多機能ホーム)に来る前に『花屋さんに行きたい』とリクエストをいただいたので、花屋さんに寄ってきました。あとはお薬の管理、訪問診療の同席などもしていますね」

「ここでの仕事は本当に楽しいんです」と朗らかに語る志藤さん。以前は札幌の病院で働いていましたが、救急外来で多くの患者を受け入れ、作業的な仕事をこなす中で、「これでいいのだろうか」という気持ちが積み上がっていったといいます。

「札幌にいた頃は、1時間に何台も救急車が来るような環境で、ごはんも食べられないほど忙しく過ごしていました。患者さんと関わる時間も短く、まずは措置が優先。患者さんの気持ちを汲み取る余裕がまったくないんです。もちろん措置が優先というのは大前提なんですけど、これでいいのかな? と感じてしまって……」

目の前の患者さんと深く向き合えない寂しさを感じていた頃、偶然目にしたのが、看護小規模多機能型居宅介護「ぐるんとびー駒寄」で深夜にラーメンをすする高齢者の動画でした。動画の主役は、96歳の近藤角三郎さん。一般的には誤嚥のリスクがあるためNGとされている行為を紹介したその映像は、SNSで賛否両論の議論を巻き起こしました。

「ラーメンの動画とそれに対する代表(株式会社ぐるんとびー代表取締役 菅原健介さん)のコメントを見て衝撃を受けました。否定的な意見があるのも理解できますが、それよりも、ここで働いたら患者さんをちゃんと一人の人として見る視点が養えるかもしれないと思ったんです。それからすぐに『ぐるんとびーで働きたいです』とメールを送りました」

その熱意が実り、志藤さんはぐるんとびーで看護師として働くことになります。病院とはまったく違う利用者との向き合い方に、最初は驚きもあったそう。

「病院だと、たとえば『胃がんのXXさん』のように、病気やお薬、症状の側面から人を見がちなんです。でもぐるんとびーにいると、『XXさんは、そういえば胃がんでしたね』というように、病気もその人の一面でしかないという見方ができるというか……。まずは、その人がどういう暮らしをしてきた人なのかを知る。その上で、暮らしの中で病気の辛い症状が出てきたとき、看護師としてどんなサポートできるかを考える。そもそもの考え方が病院と真逆な印象があります」

相手の身体、精神、社会。そして「文化」を尊重したい

「利用者」「患者」という枠組みに当てはめるのではなく、それぞれを個性ある個人として尊重するーー。志藤さんの話からは、ぐるんとびーのそんな理念を伺い知ることができます。その考え方の背景について、看護師統括を担当する石川和子さんはこう語ります。

「看護の世界には、患者さんを『身体』『精神』『社会』の3つの面から捉えるという考え方がありますが、ぐるんとびーではそれに加え、相手の『文化』も考慮することを大切にしているんです」

その人がどんな環境で育ち、どんな思想を持っているのか。何が好きで何が嫌いなのか。その人を形作る「文化」を深く知ることで、より相手の立場に立ったケアができるようになる。ぐるんとびーではそういった考え方が共有されています。

その土台があるからこそ、病院では「危険だから」と禁止されていることでも、本人の希望ならできる限り実現する手助けをする。その価値観が前述の「深夜のラーメン」にもつながっています。とはいえ、リスクの高い行為であることも事実。単に「食べたいと言われたから応える」のではなく、その裏にはコミュニケーションの積み重ねがありました。

「もちろん誤嚥の可能性もあるけれど、彼には残された時間があとどれだけあるのかわからない。食べることを大事にしている人だったから、好きなものを食べたいという希望は叶えたい。そのために体調の観察やリスクを最小限にできるようにしていました。」

看護多機能ホームの看護師や、訪問看護を行う看護師。それぞれが知識や意見を持ち寄って、「どうすれば実現できるのか」を考えたといいます。安全を優先した結果、医療や家族が本人の選択肢を奪ってしまうというジレンマ。ぐるんとびーは、そこに真っ向から向き合っているのです。

「たとえば旅行が好きな人に『〜〜へ行きたい』と言われたら、ご利用者様と一緒に実現したいですよね。実現するために、出発してから家に着くまで救急搬送されないように体調の調整をしたり、万が一救急搬送されたとしても困らないように体制を整えたりといった下準備をします。

人の人生を豊かにするために、“できない可能性”を考えるより“できる方法”を考えていきたいんです。私は『どうすればできるか』を考える能力のことを『専門性』と捉えています」

利用者のやりたいことを優先するのは、命の危険と紙一重でもあるため、特に医療現場からは否定的な意見が挙がることもあります。病院のアプローチとぐるんとびーのアプローチ。どちらが良い/悪いではなく、連携しながらケアすることが大切だと石川さんは続けます。

「私たちは『健康』を、身体的側面だけではなく『ほどほどに幸せを感じられる状態』と定義しています。その状態を作ることと、身体的側面の治療をすることはそれぞれに必要だから、それぞれの役割で一緒に支えていければいいなと思います」

とはいえ、相手の要望にすべて応えるのは難しいことです。どうしてもできないことや、その場で応えるのが難しいとき、現場はどのように対応しているのでしょうか。志藤さんはこう語ります。

「利用者様がおっしゃることすべてを受け入れるのではなく、『今この人はどうしてそれを要求しているのだろう』『それを実現するとどんなことがあるのだろう』『この人に本当に必要なことなのだろうか』をしっかり考えて、見極める力をつけていかなきゃいけないのかなと思います。言葉にしていることが本心とは限りませんから、『そう言っているのはどうしてだろう?』を常に考えて、本当の気持ちがどこにあるのかを見つけるためのコミュニケーションをとれたらと思っています」

マニュアルのない現場で必要なのは、「相手が何を望んでいるか」の本質に迫ること。日頃から深く関わっていないと見えない部分なので、汲み取るのが難しくもあり、ぐるんとびーのアプローチだからこそ配慮できる部分であるともいえそうです。

石川さんは、かつて担当していたある利用者のことを振り返ります。脳梗塞と貧血の症状があり、本人は家で過ごすことを希望したけれど主治医は大反対……という難しい状況だったといいます。

「主治医から『安全を考えたら一人暮らしは無理』と言われ、ご本人から『家に帰りたい』と言い出せなくなってしまっていたんです。なので私たちがサポートし、普段の行動の傾向から『どうすれば自宅でも転ばずに安全に過ごせるか』を最大限に意識して環境設定を行い、なんとか家で過ごす方向に持っていきました。もちろん危険が0になるわけではありませんが、本人の希望を尊重するためにできる限りのことはしました。その結果、今は自宅で怪我せず過ごすことができています」

たとえ転ぶ可能性があったとしても、それでも家に帰りたいのであれば、転ぶ権利だってある。本人のキャラクターや行動の傾向を踏まえ、できる限りの安全を確保した上で、その人がその人らしく生きる可能性を追求し続けたい。看護師・介護士それぞれがその信念のもと連携し、一人ひとりにとってベストなケアを模索しています。

それぞれが支え支えられ、「大きな家族」になっていく

利用者との関わり方に加え、ぐるんとびーにはもうひとつ大きな特徴があります。それは、運営する事業所が集合住宅内にあること。「地域を一つの大きな家族に」という理念を掲げ、近隣の人とも関わり合いながら運営をしています。

「コロナ禍でイベントを開いたり人を集めたりするのは難しくなりましたが、その中でもできることをやっています。たとえば、最近はじめたのはラジオ体操。うちの理学療法士と看護師が、地域とのつながりを作るために自発的にやり始めたものです。近所の小学生が来てぐるんとびーのスタッフとかけっこしたりと、いいつながりが生まれているなと感じます」

地域とのささやかな交流は、日々の生活の中にも息づいています。

「道路に面しているので、通りかかった人とお話ししたり、地域の方が畑で採れたお野菜を持ってきてくれたり……。野菜をいただいたついでにご家族の介護相談が始まることもあります。あとは、団地の方が『帯状疱疹ができちゃったみたい』と突然訪ねてこられたり、『猫がいなくなったので探してください』という相談が来たり……ちなみにその後ちゃんと見つかって、全社メールでお知らせしました(笑)」

「ぐるんとびー駒寄」がオープンして6年。年月を積み重ねてきたことで、地域とのつながりはより強く、深くなってきています。利用者様を看取るときや葬儀を行うとき、近隣の方が訪れることもあるそう。近所付き合いが希薄になりつつある現代において、相手の生活や人生に干渉し合える関係性は、まさに「大きな家族」と呼ぶにふさわしいのかもしれません。

「家族って、その人の一番の理解者のことだと思うんです。ここで働き始めて、血のつながりがなくても、一番の理解者にはなり得るのかなと思うようになりました。積極的に関わりを持とう、困ってたら力になろうと思い合える相手のことを『家族』と呼べるのではないでしょうか」

志藤さんは「家族」という言葉の定義についてそう語ります。

「人間関係なので、うまくいかないこともありますよ」と話すのは石川さん。

「地域の方からお叱りをいただくこともあります。ただ、人と深く関わる中で衝突はどうしても生まれるもので、それが悪だとは思っていません。私たちもまだまだこれからですし、周りの方にご指導いただきながらいい関係性を作っていけたらと思っています」

新型コロナウイルスの影響で、近隣との交流の場を設けることが難しい今。これからは、より積極的にコミュニケーションの場を作っていきたいと意気込みます。

「看護小規模多機能ホームが、『今日あそこ行こうかな』くらいの気軽さで立ち寄れる場所になればいいなと思っています。高齢者はもちろん、この辺りは子育て世代も多いですし、全世代に何かしらのアプローチができたらいいですよね」

さらに、利用者や地域の人と関わるにあたり、看護師や介護士にも心に留めておいてほしいことがあると石川さんは続けます。

「私、ぐるんとびーに就職した当初は子連れ出勤だったんです。なのでほとんど何もできず、スタッフや利用者さんの動きを見て過ごしました。でも、何もできない状態を経験したから、『私は看護師だけれど、一人のただの人間として存在していいんだ』と思うことができたんです」

利用者だけでなく看護師もまた、一人ひとりが個性ある一個人です。「看護師が利用者を助ける」という一方通行ではなく、看護師も助けられる存在である。それを認め合える環境がひとつの理想だと石川さんはいいます。

「看護師だって、困ったときは『助けて』と言っていいし、自分が人から助けられる存在だと認めてほしいです。必要なときに看護師のキャップをかぶれる人がいる。そして、その人もまた地域から助けられる存在である。そうしてみんなが支え合う状態が、地域の健康なのかなと思うんです」

肩書きにとらわれず、それぞれが支え支えられて生きていく。ぐるんとびーが掲げる「大きな家族」の形は、看護・介護業界にとどまらず、人が生きるために不可欠な“つながり”のヒントになりそうです。

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