【オマハシステムで看護の価値を目に見える形に】岩本大希さんインタビュー

オマハシステムをご存知でしょうか。

看護による成果を定量的に評価できて、他職種との情報共有に最適なアメリカ発祥のツールなのだとか。

日本国内ではまだ片手で数えられるほどの事業者しか使用していません。

今回はオマハシステムの日本語訳にも携わった、自身も訪問看護師でありながら都内の訪問看護ステーションの代表取締役を務める岩本大希さんにお話を伺ってきました。

岩本大希(看護師)
WyL株式会社 代表取締役/ウィル訪問看護ステーション江戸川 管理者
総合大学の看護医療学部を卒業後、神奈川県相模原市にある北里大学病院の救命救急センターのICU等で看護師として従事。三次救急のドラマティックな看護を経験しながら、患者が家に帰りたくても帰れないことで救急車のたらいまわしが起こる「ベッドの玉突き事故問題」や、突然の搬送・救命治療での充分な意思決定の時間が足りない事を問題と捉え、在宅医療・ケアの受け皿としてヘルスケアベンチャーにて24時間365日対応の訪問看護事業を起こす。

オマハシステムとは

オマハシステムの原本と日本語翻訳版

オマハシステムは20年ほど前にアメリカネブラスカ州オマハの訪問看護師協会で開発されました。

患者の状態、どのような介入をした結果どう変化したのかを点数で表して、看護のプロセスを可視化できるツールです。

数値による表現のため、誰にでも分かりやすい上データの蓄積も可能です。

海外では既に複数の国や地域で使用されていて、言語や民族の違いに関わらずどこでも使用することができることが分かっています。

看護は定量的に評価しづらいもの

医師が行う診断や治療とは違い、看護という活動は人が健康に生活できるための援助を目的としています。

ここでいう健康とは病気ではない状態を指すのではなく、肉体的、精神的あるいは社会的に満たされた状態であるということです。

たとえ病気を抱えていてもその人が望む生活ができているかという点に着目しているのです。

そのため、患者自身のことや生活のことを知ることはもちろん、患者本人が気づかないうちに健康を阻んでいる問題があればフォーカスしていきます。

時には患者本人だけではなく、その家族やコミュニティも支援する必要があります。

このような包括的な視点に基づいて看護介入しているため、これをしたからこのように良くなったと判断することが難しいのが看護だと言えます。

特に在宅看護の場合、抱えている病気が多岐に渡っており、生活環境や受けているサービスも様々であることから条件を揃えて計ることが難しくなります。

だからこそ在宅の現場でオマハシステムを使うことには意味がある

在宅の現場には、医師、看護師、薬剤師、ケアマネージャー、ホームヘルパー、介護職など様々な職種の人々が関わっています。

オマハシステムは誰でも分かる平易な言葉を用いて記述されているため、多職種間での情報共有が可能です。

チームで議論しながらアセスメントをして書き記していく方式をとっているため、オマハシステムの使用を通して自然と関係者の議論が生まれたり患者に対して共通の認識を持てるようになったりという側面もあります。

医療職だけでなく家族と一緒に患者のケアをする傾向が強いのも在宅の大きな特徴であり、オマハシステムの記述なら家族との情報共有も容易だと考えられます。

他にも、看護師がどう判断してどのような介入をしたかというプロセスを後からなぞれるため、看護師教育に使える可能性もあります。

定量的な成果が看護の価値を伝えるきっかけに

オマハシステムのメリットはそれだけではありません。

誰が見ても分かる定量的な成果があることで、これまで看護のサービスを受けたことがない人にも看護の価値が分かりやすく伝えられるのではないかと岩本さんは考えています。

その根底には、今まで多くの看護師が現場で培ってきたナレッジがたくさんあるのに共有されてこなかったことへのもったいなさや、訪問看護と訪問介護の違いや看護の重要性を分かってもらえない悔しさといった思いがあります。

誰の目で見ても分かりやすい形で看護の成果を提示することで、看護というサービスの重要性や価値を伝えられるようになります。

もっと小さい規模で言えば、チームとしての成果が目に見えるようになるため、訪問看護ステーション同士での情報交換に繋がるかもしれません。

まとめ

業務の効率性を上げつつ患者がより良いサービスが受けられるように工夫する岩本さんの生き生きとした話し口が印象的でした。

ご自身が代表取締役を務めている訪問看護ステーションでは実際にオマハシステムを試用している最中だそうです。

看護学生である筆者も看護サービスの価値の説明しづらさを感じていたので、看護のプロセスを可視化して分かりやすく伝えられるようになるのはとても魅力的であると感じました。

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